「専門領域に逃げ込むことこそ専門家の怠慢である」があまりにも金言

記事の更新から随分遠のいてしまっていました。

日々の生活に追われていると、どうしても俯瞰的な視点というのは持ちにくくなるように思います。少し立ち止まって、ゆったりと、そしてじっくりと思考する時間は、何よりの贅沢だなぁとつくづく感じます。

 

さて、前の記事の「法学が単なる小知恵以上のもの足りうるためには現実の社会を観察する必要がある」といった文脈の中で、こんなことを書きました。

単に合理的な規則を作って適用するのではなく、実際の市民生活や取引社会を睨み、時代の流れを嗅ぎ取りながら、独自の問題意識をもって法創造あるいは法解釈を行っていくことができれば、それは意味のある仕事たりうるのかもしれません。 

これ、完全に「言うは易く行うは難し」で、そんなに簡単にできることではありません。

僕もまさしく法解釈やルールづくりなどをクライアントと一緒にしていくなかで、「それは杓子定規ですよね」と言われた(というか半分怒られた)経験があります。要は「実態を無視している」という印象を抱かせてしまったのだと思いますが、僕もまだまだ未熟者で、どうすれば解決できるか頭を抱え込んだりすることはよくあります。

 

ましてや、最新の技術を用いた分野や現在進行形で変わりゆく産業に関する法規制などといえば、あまりにも考えることが多すぎて思考体力がどれだけあっても足りない気がしますし、頑張って実態を探るだけでも日が暮れてしまいます。それに、我々はその分野に関する専門家ではなく、あくまで法律の専門家にすぎないわけで、「実際の市民生活や取引社会を睨み、時代の流れを嗅ぎ取りながら、独自の問題意識をもって」などという理想は、ほとんど絵に書いた餅になるのが普通です。

 

どうにかならんもんかなぁと、ずっともやもやしていたところ、最近とある法律雑誌の連載記事で、上記の理解からしたらかなり野心的な取り組みを試みようとするものを発見しました。

最近FinTechという言葉を雑誌などで見かける機会が多いと思いますが、その連載記事もFinTechに関する法制度の最新動向を紹介するというものでした。読んでいてかなり感動したので、長いですが引用します(増島雅和・堀天子「第1回 銀行APIに関わる当事者間の合意事項の検討(FinTech深化に向けた制度のデザイン――新しい金融パラダイム実現のために )」『NBL』商事法務・1086(2016.11.15)号)。

我々の社会の仕組みを司る「制度」が法律によって支配されるものと考える風潮が依然として根強い中、本連載は、これとは異なる視座に立って、法律のみならず自主ルールや監修、商業や技術アーキテクチャの組み合わせによって成り立つ本来ダイナミックなものであるべき金融制度を、第四次産業革命のパラダイムに適合するよういかに移行させていくべきかという問題意識から構想されたものである。

(中略)既存の法律を前提にその抵触の可能性や問題点を提起して、前向きに事に取り組む姿勢を見せる関係当事者を萎縮させるよりは、むしろビジネスを前に進めるために今後検討されていくべき事項は何か、第四次産業革命の基盤を担う金融インフラを構築するというゴールに向けて、現在我が国で行われている議論の中で適切に取り上げられていない論点は何か、という観点からアジェンダを提起するスタイルを採用する。

いかがでしょう。「もう杓子定規とはいわせない」という強い決意のようなものがにじみ出ていると思います。執筆者は最後にこう続けます。

こうしたものの一部はもとより我々が専門とするところではないが、誰も経験したことのない未来に対して専門領域に逃げ込むことこそ専門家の怠慢でありイノベーションの弊害であるとの信念のもと、FinTech起業家がイノベーション――新しい金融パラダイムの実現――のために不可欠と心得て実行する試行錯誤を、法律家である我々もしてみようとしてするものである。

僕はこれを読んだとき、頭をがつんをやられたような気分になりました。さっきまで「実際の市民生活や取引社会を睨み、時代の流れを嗅ぎ取りながら、独自の問題意識をもって」などという理想は、ほとんど絵に書いた餅になる」なんて格好つけて言っていたのが恥ずかしいです。僕よりもずっと年上であろう執筆者達の「専門領域に逃げ込むことこそ専門家の怠慢」という言葉がとてつもなく重くのしかかって来ます。

上がやってるんだから、下も負けてはいられません。むしろまだまだ「試行錯誤」が許される下の方こそ、もがいて、あがいて、泥臭くやっていくべきですよね。

 

法律を単なる小知恵以上のものにするべく焚き付けられた上記執筆者達のような法律家(そして僕のような若手も!)がいる以上、法律家や法学がこの世の中へインパクトを与え続けることは可能であると確信した次第です。

 

まだ僕も全て読めているわけではありませんが、本稿で出てきたFinTechに関するおすすめ本、載せておきますので、ぜひ一緒に勉強していきましょう。